

……僕の話が聞きたいの? 物好きだね。
あまり話したくないけれど……いいよ。ご飯をくれた恩もあるし、教えてあげる。
僕は元々、ただの人間だった。当時はそう思ってなかったけれど。
その頃の僕は、自分で言ってて恥ずかしいけれど……才貌両全だったんだ。失敗なんてしたことがなかったし、欲しいものは何でも手に入れていたし、顔だって整っていた。
そして何より……愛する恋人がいた。
一目惚れだったんだ。どうしても欲しくって、それまでの全てを捨てて手に入れた。
彼はとっても優しい人だったんだ。少し不器用で、不愛想だけど、心の奥はとっても温かくって、春の日差しのようだった。正義感が強くて、真面目で。そのせいで苦労だってたくさんしているのに、それを曲げない人だった。
その優しさに、心の美しさに、僕は魅了されてしまった。僕の全てだった。とても愛していた。……ううん、今でも愛している。
だから、何でもしてあげたかった。
失敗したことがなかったと言っただろう? だから僕は、自惚れていたんだ。僕の選択は必ず正解で、僕のすることは必ず成功するんだ、って。
恋人の恐怖を、取り除いてあげようと思ってしまったんだ。
恋人が持つ、死の恐怖を。
同時に、当時の僕は老いを恐れていた。自分の美しさに過剰な価値を見出して、醜くなることを恐れていたんだ。
ねえ、愚かな僕は、何をしたと思う?
一緒に死のうって死ぬ日を決めて、場所を作って、薬を用意したんだ。
僕の四十歳の誕生日が、その日だった。
僕たちはキスをして、抱きしめ合って、薬を手にした。
二人だけの空間で、僕はそれを口にした。幸せだった。二人で永遠になれるんだって、恋人も幸せにできるんだって。
恋人は、薬を飲めなかった。
当然だよね。死を恐れている人が、自分から死ぬ薬を飲むなんて出来る訳ない。
恋人は……エインは、たった一人、冷たくなる僕を抱きしめ続けた。恐怖の中で、孤独に苛まれながら。
そして、壊れてしまった。死の恐怖と、僕を失った悲しみと、孤独感と……たくさんの感情に呑まれて、エインはエインでなくなってしまった。
彼は僕を蘇らせようとした。調べて、調べて、調べて、調べて。
でも、そんなものは存在しなかった。当たり前だよね、だってそんなものがあったら、誰だって大切な人を蘇らせているはずだもの。
……じゃあ、どうして僕はここにいるのか、って?
それはね、エインの前にかみさまが現れたから……らしいんだ。
かみさまはエインに、僕を蘇らせる方法を教えた。
それには、たくさんの命が必要だった。優しい彼にとって、命を集めるなんてこと、一番避けたいものだったはずだ。
それなのに、彼はそれを実行した。かみさまから借りた力で、たくさんの人を殺した。
知らない人も、知っている人も、大切な人も。必要な命が集まるまで。
それほどまでに、エインは壊れてしまっていた。彼がこれまで曲げなかった大事な信念は、僕のせいで壊れ切ってしまったんだ。
……結局、命は集まってしまった。
彼はかみさまから教わった通りに、儀式を行った。僕を蘇らせようとした。
結論から言えば、儀式は失敗した。
人間が、力を使いこなせるわけがないんだ。人智を超えた知識の濁流、力の暴走。そして、膨らみきった罪悪感。エインの心は儀式の途中で、粉々に砕けてしまった。
どうやらその時、僕は不完全な状態で蘇ってしまったらしい。
腐敗していた肉体は半分だけ再生されて、理性もない。大けがをしているような状態だから、すぐに死ぬ。
でも、僕は『蘇る』んだ。その、半分だけ再生されている、腐乱死体のような状態に。それが永遠に続くような状態になっていたんだって。……ほんの少しだけ覚えているよ。とても、苦しかったこと。
じゃあ、何で今の僕はそんなんじゃないのか、って?
かみさまとその仲間が、助けてくれた……と言って、いいのかな。彼らからすれば、ただの気まぐれだったんだろうけど。
完全に狂ってしまったエインを殺して、その体を僕の再生していない部位に継ぎ足し、縫い合わせた。
そのおかげで僕はまるで死に続けているような地獄には至らず、ゾンビとしてふらふらできている……というわけ。
と言っても、『蘇る』ことに変わりはない。僕は死んだとして、『あの場所』でまた目を覚ますんだ。
だから僕は、死ぬこともできないまま……ずっと、彷徨い続けている。この日々は、罰なんだろう。僕の犯した、許されない大罪への。
終わりが来るのかも分からない。僕は、死ぬことすら許されないんだ。
もし、願いが一つ叶うなら。
また……彼に会いたい。
……面白くない話だったのに、ずっと聞いてくれたね。
ありがとう、優しい人。どうか君は、幸せに生きられますように。
なんで知っているか?
恋人が日記を残していたからだよ。一人に耐えられなかった彼は、ずっと日記をつけていた。日記の中で、自分と会話し続けていたんだ。
どうやら彼は、ショックから僕を示す全ての言葉を認識できなくなってしまったらしい。そこで彼が用意した新しい僕を示す言葉が、『レクム』だったんだ。だから、僕はレクムなんだよ。
……本当の名前は何か?
……名乗りたくないんだ。ごめんね。
『あの部屋』はなにか、って?
『あの部屋』はね、最初に僕が死んだ場所……僕が恋人と死のうとした場所だよ。
それと同時に、彼が儀式を行った場所でもある。
どうやら『あの部屋』は、特別な場所になってしまったみたいなんだ。呪いがかかった……とでも言うべきなのかな。
時が全く進まないし、僕以外は入れない。出たら戻ることもできないし、振り返っても扉が見当たらない。儀式のために使った血も、彼の亡骸も、本来ならあるはずなのに……そこにはない。

